私は犬が嫌いだった

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 ベッドに腰掛けスマホを見る。そこでメッセージアプリの通知に気付く。美希からだった。 『犬との新生活は大変だと思うけど、元彼撃退の為にも我慢だよ。私も応援してるから』  メッセージの下には、見知らぬ犬の写真が添付されていた。明らかにネットからの拾い画だった。美希は犬を飼っていないし、画像には@IDが乗っていたからすぐ分かった。  美希は変わっている。知っていたけど、行動の一つ一つがやっぱり人とのズレがあった。  それでも仲が良いのは、彼女に悪気はなく、ただ本気で何とかしてくれようとしているのが伝わってくるからだ。  私はどうにか頑張ると打ち、それから名前をどうするかで悩んでいると告げた。美希からの返事はすぐにきた。 『だったら、恋人にしたい名前をつければ良いんじゃない? もし、アイツに犬の名前聞かれた時に恋人の名前だって言えば、ショックで諦めてくれるかもしれないよ』  それいい、と私は思わず声をあげた。確かに万が一にも聞かれた時に、「今彼の名前にした」と言えば、牽制にもなるかもしれない。低い可能性だったとしても、せっかくの機会なのだからあらゆる手は尽くしたかった。  ただ、理想の名前と言われてもすぐには思いつかない。私はネットで柴犬の名前で検索をした。  人気の名前の中から、リクという名前を候補にする。早速、部屋を出て一階に下りる。  すでに両親はゲージ越しにちょっかいをかけていた。 「ねぇ、名前なんだけどさぁ、リクとかどう?」  両親が私の方を向く。 「いいじゃない。リクね」  それから母は「りくちゃーん」と言いながら、オモチャの骨付き肉を振る。 「ワン」と言いながら、短い尻尾が左右に激しく振られる。 「おお」  父が感嘆の声を上げる。 「リクちゃーん」  母がオモチャを横に振る。よこせとばかりに、リクがジャンプする。  その度に二人が何かしら声を上げて喜ぶ。将来、自分に子供が出来た時の両親の姿に感じて、私は何だか呆れるようでいて、胸がむず痒くなるような不思議な気持ちになっていた。
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