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翌朝、リビングに下りると、父は朝早くから、リクを連れて散歩に出かけたのだと母に告げられた。
私はまずいと、慌てて父を追いかけるために家を出た。
当初の目的である、犬を飼った事を知らしめる為の散歩に連れて行かなきゃいけないからだ。だけど、私は犬を散歩したことがなかった。だからこそ、父から教わっておかなくちゃいけない。
大学からの帰りをつけられていることが多いことは分かっていたから、帰ってからすぐに犬と共に外に出れば自ずと元彼も目撃することになるはずだった。
期間は一週間しかない。多くて六回。だからこそ、その時間を無駄には出来なかった。
歩きながら父に電話すると、まだ近くの公園にいるとのことで、私も急いでそこに向かった。
言われた公園にはベンチに座る父の姿があった。お父さんと呼びかけると、父が顔をあげてこちらを見た。足元に座っていたリクも、私の方を見て「わん」と鳴いた。
父と一緒に家路を歩きながら、私はリードを強く握っていた。ぐいぐいと先を行くリクに何度も振り回され、その度に父が笑う。
こんなに笑う父を見るのは初めてだった。
「お父さんって、犬が好きなんだね」
「ああ、昔飼ってたからな」
「どんな犬?」
「コイツと一緒で柴犬だった」
父の優しい眼差しが、電柱の匂いを一心不乱に嗅いでいるリクに注がれる。電柱に粗相をしたのを持ってきていたペットボトルの水で流す。
「名前は何ていうの?」
「太郎だ」
「なんだかありきたり過ぎない?」
私が笑うと父も、そうだなと言って笑みを零す。
久しぶりに父とまともに会話していた。いつもは反応が薄いこともあって、私もあまり積極的には話かけずにいたからだ。
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