私は犬が嫌いだった

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 家に帰ると、母が朝食の準備をして待っていた。もちろんリクの分も、ドッグフードが皿に盛られてテーブルの下に置かれていた。 「リクちゃんもお腹空いたでしょ」 「わん、わん」  凄い勢いでリクが餌に飛びつく。気持ちいい食べっぷりに父も、母も顔を見合わせて笑う。  私は少しだけ引いていたけれど、両親の楽しそうな様子に水を差さないようにそっと洗面所へと向かった。  可愛くないわけじゃない。ただ感情の振り幅が急で勢いについていけなかったのだ。  うがい手洗いを済ませてリビングへ戻ると、すでにリクは食事を終えて部屋中を歩き回っていた。  落ち着かないなと思いながらも、私は黙ったまま椅子に腰掛ける。 「元気ね」  母が茶碗片手に、リクを見つめる。 「ああ、さっきあれだけ歩いたのにな」  いつもは静かな朝食が今日は賑やかに感じられた。二人の視線の先には、ボールを口に咥え、頭を振るリクの姿がある。  忙しないと、内心で溜息を吐く。一週間だけとはいっても、この生活が続くのは何だか慌ただしいようにも思えていた。  大学から帰って来た私は早速、リクを連れて家を出る。駅から家までの間、背後から元彼の気配を感じていただけに、私は緊張していた。 「リク、行くよ」 「わん」  私の呼びかけにリクが喜び勇んで、リードを引っ張るようにして外に飛び出す。 「ちょっと、待って」  私はたたらを踏みながら、リクの後を追う。  電柱の影にサッと人影が見えたけど、あえて気付かないふりをした。  そのまま、公園の方へと向かう。  最近は外に出るのも躊躇われていただけに、今はリクがいると思うと少しだけ心強い。なんといっても、元彼は犬苦手なのだから。もちろん、私も苦手だけど。  先を歩くリクに振り回されながら、なんとか公園に辿り着く。  動物がいるとやっぱり目立つのか、小さな子供が「あ、犬だー」と言って、指を差す。  触りたそうな顔をしていたけれど、私は気付かないふりをした。まだ躾けもなっていないだけに、噛んだりでもしたら怖かったからだ。
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