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赤い満月が浮かぶ夜。
古びた神社に老若男女が集まった。
大学生らしいチャラそうな若い男、不満そうに顔を歪めた主婦、ビール腹の禿げてる中年男性。悪戯好きそうな男の子に穏やかな雰囲気のお婆さん。
『喫茶ヨウコ』の客、ビジネスマンと粋なお爺さん、セーラー服の女子高生もいる。
白い着物を着たヨウコが皆の前に立ち、ひとりひとりの顔をゆっくり見渡した。
「久しいの、同胞達よ」
ヨウコの低い声が響くと、ざわざわしていた場がしんと静まり返る。
「さぁ、皆の衆、賭けを始めようぞ。我の店に迷い込んだ娘。変化の紅を1日で止められるかどうかを賭けようではないか。美人に化ける快感を覚え、2度、3度使えば、もう娘は我らの同胞。人の子には戻れまい」
ヨウコが赤い月に向かってコンと鳴く。一瞬で真っ白い大きな妖狐の姿に変化する。それが合図だったかのように、集まっていた人々もコンと鳴き、妖狐の姿に戻っていった。
妖狐達は賭けだ仲間だと興奮しながら、小判を次々宙に投げる。
「おやおや……皆、紅を点し続けるに張っては賭けにならぬぞ。つまらぬのぉ」
白い妖狐は赤い目を愉しげに光らせ、にやりと笑う。
「さてさて……あの娘は欲望を抑えられるのか……我らはゆっくり高みの見物でもしようではないか。今夜の我は気分が良い。さぁ、宴を始めようぞ」
妖狐達が飲めや歌えや騒ぐ中、赤銅色の月光はただ静かに神社を照らし続けていた。
《了》
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