喫茶ヨウコ

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 ガラガラと引き戸の入口を開ける。  いらっしゃいませという少し甲高い声が聞こえ、ほっそりとした色白の女性が奥から出てきた。藤色の着物に前掛けをし、べっ甲の(かんざし)で髪をまとめた一重瞼(ひとえまぶた)の美人である。  どことなく妖艶な美しさを持つ女性に息を呑み、一瞬体が固まる。  ……綺麗。店名の『ヨウコ』ってこの人の名前かしら。  着物の女性は(わず)かにつり上がった切れ長の目を細め、漏れる口元の笑みをしなやかな手つきで隠しながら、早苗に声を掛ける。 「お好きな席へどうぞ」  軽く会釈した早苗は、レトロな雰囲気の店内をくるりと見渡した。思っていたほど広くない。テーブルは7卓。お客は3人。  グレーのスーツを着た眼鏡のビジネスマンらしき男性。着物を着て扇子で仰ぐ粋なお爺さん。この辺では見かけないセーラー服の女子高生。  バラバラに座っている3人がチラリと早苗を見た後、そそくさと目を伏せる。  常連じゃない客が珍しいのだろうか?  たしかに、他の客3人は勝手知ったるような雰囲気を醸し出していた。居心地の悪さを少々感じつつも、ま、いいやと1番奥の窓際に座る。やはり端っこというのは落ち着くのだ。   「……コーヒー、ありますか?」 「ございますよ」 「じゃあ、コーヒーで」 「かしこまりました」  着物の女性が微笑む。口元を彩る紅色(べにいろ)が白い肌によく映えた。  私も綺麗だったなら……  窓ガラスに映った自分と目が合い、ぷいっと顔を背ける早苗。  自分の顔は嫌いだ。  ぽっちゃりしたまん丸顔にたれ目。タヌキっ()と無遠慮な叔父達に子供の頃から揶揄(からか)われていた。低い鼻にはそばかすも散らばる。大学生になり、気合を入れて化粧もしたが、そばかすを隠そうと厚化粧になってしまい、おかめさんみたい。と友人に笑われた。それ以来、化粧もほどほどにしているけど……    やっぱり、みんな綺麗な人がいいんだ。
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