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一頻り泣いたせいか、急に冷静になった早苗はかぁぁっと茹でダコのように顔を真っ赤にし、今の状況に羞恥を覚える。
やだ……店員さんに迷惑な客だと思われたに違いない。
恥ずかしくて堪らなくなり、顔を隠すように俯いた。ヨウコは小さく紅色の唇を上げると軽く頭を下げ、奥の厨房にスッと消えていく。
本当に恥ずかしい…………
居たたまれなくなった早苗は、冷めたコーヒーをクイッと一気に口に流し入れた。ミルクで少しまろやかになった苦みが喉を通過し、ゴクンと飲み込む。鞄に手を掛け、立ち上がった。
「お客様、お帰りですか? 冷めてしまったコーヒーの代わりをお持ちしたのですが……サービスですから、お飲みになっていきませんか?」
「え……あ……はい……ありがとうございます」
ヨウコにタイミング良く声を掛けられ、思わずストンと椅子に座ってしまう。温かいコーヒーとミルクがテーブルの上に置かれた。帰る機会を逃してしまい、早苗は躊躇いながら、コーヒーに手を伸ばす。
「お客様。先程、綺麗だったら……と仰ってましたけど、美しい女性になりたいのですか?」
自分が綺麗だからって、さりげなく自慢してるの……?
私、卑屈だなと思いながらも、容姿で振られたばかりの早苗は素直な気持ちにはなれない。ぷいっと横を向き、ムスッと不機嫌な声をだした。
「え……ええ、そりゃあ、不細工より綺麗な方がいいに決まってます」
「左様ですか。1日だけでもよろしければ、美しい女性に化けてみませんか?」
艶やかなゾクッとする笑顔を見せ、ヨウコは着物の懐から5㎝程の二枚貝を出した。
「こちらをどうぞ」
「……貝……ですか?」
テーブルにコトンと置かれた、ぷっくりとした貝殻に早苗は不審な目を向ける。
……ハマ……グリ……よね? これ?
「ええ。開けてみてくださいな」
薄っすらと笑みを浮かべるヨウコに言われ、蛤を恐る恐る手に取り、そっと口を開く。予想外の色が早苗の目に飛び込んできた。
「え? 緑?」
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