プロローグ

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 竜は一人の、ひとりぼっちの人間の女の子だった。  家族からも疎まれてばかりで、嫌われ者で友達もいなくて、ただただひとりで毎日を過ごしていた。  学校にも家にも、ぼんやりと手を出したネットにも、居場所はなかった。  女の子がもらったものは、泥のような生ごみのような匂いの、吐き気がする気持ち悪い言葉ばかりだった。  女の子の周りには、いつもぐずぐずに腐った怒声や悲鳴や笑い声ばかりがあふれて、ぐさぐさと容赦なく、やわらかい心に深く傷をつけていった。  いじめられて、無視されて、毎日臭くて汚い女の子だった。  なんのとりえもなく、自慢できるところも、自分の好きなところもなかった。  気づけば笑わない子になっていた。  泣くことも怒ることもなく、ただ淡々と無気力で、無関心で、ぴくりとも表情が動かない。  それがますます気味悪がられて、みんなはますます女の子を避けたり傷つけたりした。  学校の先生も、内心女の子を気味悪がっているのだとなんとなくわかった。  気味悪がっていなければ、みんなに馴染めなずぼんやりしているだけの女の子を疎んでいた。  先生だって聖人じゃない。  苦手なタイプも、嫌いな人もいる。子供が全員好きな大人なんていない。  その嫌われる子が、たまたま自分だった、それだけだった。 「ありがとう」 「大好きだよ」 「ただいま」 「おかえり」 「またね」 「おやすみ」 「かわいい」  身の回りで聞いたことがあるから、その言葉のことは知っていた。  でも、それは「聞いたことがある」だけで、「言われたことがある」ではなかった。  なんでそんな言葉が存在しているのか、訳が分からなかった。 ____あんたさえいなければ!  なんの感情も浮かばない女の子の頬を叩いて、悲鳴のような縋るような声で叫ばれたときのことを、今でも鮮明に覚えている。  消えたいと思ったことはなかった。  消えたい、だけじゃなく、死にたいとも生きたいとも、とにかくなにかを求めて、なにかしたいと思うことがなかった。  ただただ毎日、なんで生きてるんだろう、なんで生まれてきたんだろう、と、そればかり思って、無駄に息をして、無駄に長く生きていた。  十年以上何の意味もなく生きた女の子が死んだのは、高校生のときだった。  よくある普通の、翌日には忘れられているような、交通事故だった。
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