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死んだ女の子は、次に目を覚ますと竜になっていた。
竜になっても、女の子は変わらなかった。
親も兄弟も群れの仲間も、女の子を嫌った。そばにいるのさえ嫌がった。
石を投げられたり、置いていかれたりしたこともあった。
そして今、ぼろぼろになった竜は、血と雨を一緒に流して、体力も気力もなくして、道端に捨てられたように転がっていた。
竜に生まれ変わったからと言って、人間を超える力もないし、火を噴いたり魔法を使ったりもできないし、そのほか特別な力は、竜はなにひとつ持っていなかった。
冷たくて、気分が悪かった。
居心地が悪かった。
だけど、あの耳をつんざく、胸をえぐる、他人がいないだけ少しはましかと思う。
雨は冷たいけど静かで、空を覆う薄い灰色の雲も、竜に何も言わない。
ただ黙って、体から体温を奪うだけ。
それが不思議と心地いいような、へんなきもちだった。
きっと死ぬんだろうな、と竜は思った。
こんなときでも涙は出なかったし、怒りも湧かなかった。わかなかったというより、わからなかった。
竜の乾いた心は、心がわからなかった。
誰にも知られず、かすかに息をして、眠りかけたときだ。
「まだ生きてるかい?」
ふいに、あたたかい声がした。
頭に、それから背中に、ざらざらしたぬくもりが伝わった。
竜はぼんやりと目を開けた。
人の声をあたたかいと思ったことなんてなかったから、誰の声なのか、なんであたたかいのか、それが気になって目を開けた、ただそれだけだった。
それでもやっぱり視界はかすんだままで、うまく見えなかった。
あたたかいものが、ゆっくりと竜の背中をなでて、それから頬にそっと触れて、もう一度頭に乗せられた。
「おお、生きてるのか」
竜が目を開いたことに、気づいたようだった。
声はとたんに嬉しそうになった。
「じゃあ、急いで手当てしよう。わしの家に行こう」
優しい手がそっとおなかの下に差し込まれて、そこで竜はまたどうしようもなく眠たくなって、目を閉じた。
もうなんでもいいや。
意識が遠のく。
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