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それは、竜とおじいさんが一緒に暮らすようになって、一年くらいしたときだ。
おじいさんが家を出て、しばらく帰ってこなかった。
竜は一時間、帰ってきたらなにをしようか、わくわくしながら過ごした。
二時間経つとわくわくがそわそわに変わり、三時間経つとおろおろになり、四時間経つころにはおびえて震えていた。
おじいさんになにかあったらどうしよう。
捨てられたかも、置いて行かれたかも、という考えは、つい一年前なら真っ先に思い付いたに違いないその考えは、今ではもうかすりもしなかった。
おじいさんはそんな人じゃないことを、竜は誰より一番わかっていたからだ。
でも、じゃあ、何があったんだろう。
助けに行かなくちゃ。
探さなくちゃ。
そう決意した竜が、初めて家の外に出ようとしたところで、やっとおじいさんは帰ってきた。
「ただいま、お待たせ。すまなかったね」
手に何か荷物を持ったおじいさんが家に帰ってくるなり、竜はしばらくその場にかたまって、それからぶわっと涙が瞳からあふれて、思いっきりおじいさんに飛びついた。
ぐいぐい頭をおじいさんの胸に押し付けて、ぎゅうぎゅう前足でおじいさんの服をつかんで、抱き着いたまましばらく離れなかった。
竜の涙で、おじいさんの服はびしょぬれになった。
「ああ、心配かけたかい? ごめん、悪かったよ、ごめん」
おじいさんは少し戸惑っているようで、「大丈夫、ここにいるよ」「ただいま、ただいま」と言いながら、落ち着かせるように竜の頭と背中と頬を撫でた。
「今日はね、贈り物があるんだ、何をあげたらいいかわからなくて、ずっと悩んでしまったんだけど」
竜はおじいさんに顔をうずめたまま、ぶるぶる頭を振った。
贈り物なんていらなかった。
おじいさんが無事なら、おじいさんがいてくれるなら、もうそれだけで十分だった。
おじいさんに怪我も病気もせず、ただ生きていてほしかった。
それは竜が初めて求めた、初めての願い事だった。
初めて竜は、「なにかをしてほしい」と心から本気で願った。
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