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「ほら、見てごらん、降りなくていいから」
おじいさんは抱き着かれたまま、手に持った箱をそっと開けた。
中には、大きな美味しそうなケーキがひとつ入っていた。
「お誕生日おめでとう」
おじいさんが、今までの中で一番優しい笑顔でそういった。
竜はもう一度かたまった。
おたんじょうび。
お誕生日って、なんだっけ。
おめでとうってなんだろう。
「本当は君のお誕生日にお祝いしたかったんだけどね、知らないから、私と君が出会った日にお祝いしようと思ったんだ」
おじいさんは竜の頭に手を乗せて、こつんとおでことおでこを合わせ、幸せそうに笑った。
「生まれてきてくれてありがとう。君と出会えてから、我が家はすごくにぎやかで楽しいよ。君がいてくれてよかった。
大好きだよ」
竜の瞳が、湖のように静かな水面に覆われた。
それが潤んで、電球の明かりに一瞬煌めいたと思うと、次の瞬間にはぐしゃりと崩れて、ぼろぼろ頬を伝っていた。
それは、竜の心に贈られた花束。
そうか。
言葉って、吐き気がするものばかりじゃなかった。
傷つけるものばかりじゃなかった。
そうか。
大好きな人がくれる言葉は、こんなに幸せで、きらきらしていて、一生の宝物になるんだ。
大好きって、すごく素敵な言葉なんだ。
『わたしも だいすき』
おじいさんには伝わらない言葉で、だけど竜は泣きながら笑って、おじいさんの頬に優しいあたたかいキスをした。
『ありがとう』
『出会ってくれて』
『見つけてくれて』
『こちらこそ』
『生まれてきてくれて ありがとう
わたしのだいすきな おじいさん』
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