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 カツカツとヒールが廊下を蹴るいつもの音が響き、担任の魔女先生が教室に入ってきた。  先生の本当の苗字は眞城(ましろ)という。黒い服ばかり着ていて鼻が高くていつも濃い口紅だから、みんな陰で魔女先生と呼んでいるのだ。 「起立。礼。おはようございます」 「おはようございまーす」 「着席」  全員が着席するのを見届け、先生は赤い口角をクイッと上げた。 「みんな、おはよう。出席を取る前に、今日は転校生を紹介するわね」  教室をまたざわめきが支配する。「おお」とか「うちのクラスだった」とか「男子? 女子?」とか。それを先生がシーッとたしなめた。 「じゃあ入って」  魔女先生が廊下の方に目配せする。開け放たれたままの出入口から登場したのは、スラリと背の高い男子生徒だった。  ふわっとした栗色の髪に、雪のように白い肌、瞳はべっこう飴みたいに色素が薄い。なんとなく日本人離れした顔立ちだ。どこか外国の血が混ざっているのかもしれない。  そんなことより、なんて整った顔立ちをしているんだろう。つい見とれてしまいそう。  そう思ったのは私だけじゃなかったらしい。女子達はおろか、男子達までざわついている。 「今日からこのクラスの仲間になる、クロス君よ」  魔女先生が『黒須(くろす)真央(まお)』と黒板にフルネームを書いた。 「黒須君、自己紹介してくれる?」 「黒須真央です。父の仕事の都合で海外から来ました。みなさん、仲良くしてください」  やわらかい声でそう言って、黒須君はにっこり笑う。 「黒須君の席はあそこね、窓際の一番後ろの……天野(あまの)さん、手を挙げて」  案の定、先生は私の名前を呼んだ。やっぱり隣に来るらしい。 「よろしくね」  やがて席に着いた黒須君が、こちらを向いて微笑んだ。身体のだるさなんて吹き飛ぶほど甘い笑みだった。 「あ、うん。よろしく」  不吉の前触れ? むしろ逆。今日から毎日が眼福だ。
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