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翌日は珍しく快晴だった。
「ねえ、私も一緒に探そうか?」
おはようを交わしたあと、私は早速隣の黒須君に昨日の思いつきを提案した。
「え、何を?」
黒須君がキョトンとした顔でこちらを見る。言葉足らずだったらしい。
「えっと……昨日言ってたでしょ?しっぽ探してるって」
「ああ、しっぽね」と黒須君は合点がいった顔で頷いた。
「そうだね、ずっと探してるのに見つからなくて困ってる」
「そっか。あのね、困ってるみたいだから、私も協力しようかなって思って。昨日助けてくれたお礼に」
私がそう言うと、黒須君のべっこう飴みたいな瞳が、驚いたように大きく膨らんだ。
少しの沈黙の後、形のいい唇がゆっくりと開く。
「ひかりが、手伝ってくれるの?」
「えっ。あ、うん」
今度は私が驚く番。突然「ひかり」と下の名前で呼ばれたからだ。
今まで何て呼ばれていたんだっけ。苗字? いや、そもそもどっちも呼ばれたことがなかった気もする。とにかく心の準備が全くできていなかったから、なんだか恥ずかしい。
「ほら、探し物なら一人より二人の方が見つかるかなと思って」
照れを誤魔化そうとしたら、やたら早口になってしまった。
黒須君は思案するように視線を宙に彷徨わせてから、やがてクスリと小さく笑った。
「……そうだね、じゃあひかりに手伝ってもらおうかな」
「うん、まかせて」下の名前呼びのせいで軽い不整脈になっているけれど、努めて平静を装う。
「えっと……じゃあまず、探してるのが何のしっぽなのか教えてくれる?」
「何の……うーん」
また少し考え込んだあと。
「しいていうなら……天使、かな」
黒須君の口から出てきたのは、全く予想もしない単語。
「……て、天使?」
びっくりし過ぎて、声が少し上ずってしまう。でも、そんな私の様子を気にすることもなく、黒須君は
「そう、天使」
と大真面目な顔で言う。
「……て、天使ってその、神様の使いの天使のこと?」
「うん、そうだよ」
「そ、そんなの、本当にいるの?」
「それをひかりが聞くの?」
「え?」
聞き返したと同時に、鳴り響くチャイム。心臓が飛び出そうになった。
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