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その後は、いつもにも増して授業に身が入らなかった。もう何時間も経ったのに、まだ心臓が落ち着かない。
休み時間にどうにか話の続きを聞こうとしたけれど、人気者の黒須君はいつも身体が空いていない。
「そう、天使」
そう言った黒須君は、嘘や冗談を言っている目じゃなかった。ポンコツな私にだってそのくらいは見抜ける。
つまり、何故かはわからないけれど、黒須君は知っているのだ。天使が実在することを。
天使はいる。天使だけじゃなく、神様も悪魔も妖精もゴーストも。神話やおとぎ話じゃない。
だって、ここにいるから。
私が地上に降りてきたのは、三年半前。天使は十二歳を迎えると、教育の一貫で地上に放たれるのだ。人間界を荒す存在──悪魔を一匹捕まえる、というノルマを背負わされて。ちなみに、クリアするまで天界には戻れない。
そう、私は天使。羽を仕舞い、瞳の聖痕を黒いカラコンで隠し、偽名まで名乗って人間のふりをしている、天使だ。あ、ファーストネームはそのままヒカリだけれど。
父は天界にいる。世話をしてくれていた祖母が春に戻り、代わりに母が降りて来た。もちろん全員天使。
最初のうちは早く帰りたいと思っていたから、悪魔を躍起になって探していた。でも、もう諦めた。だって全然見つからない。
私の周りは平和そのもので、悪魔の気配なんて微塵も感じない。祖母も母も「会えばわかる」と言っていたから、まだ出会っていないんだろう。なら仕方ない。
そんなわけで、私は探すのを諦め、悪魔が自分からわかりやすく現れてくれるまで、人間ライフを存分に楽しむことにしたのだ。待てど暮らせど現れないけれど。
もう四年目、年季が入った私の人間っぷりは完璧だ。見た目でバレるわけがないし、羽を広げたり、空を飛んだり、聖なる力でかすり傷を治したりなんて、人間にしっぽを掴まれるようなうっかりは絶対にしていない。
なのに。
「ひかりがそんなこと聞くの?」
黒須君は確かにそう言ったのだ。「ひかりは天使だよね」と言われたも同然だ。
なんでバレたんだろう。どうしたらいいんだろう。人間に存在がバレた時の対処法なんて聞いたことがない。
それに。黒須君が探している天使のしっぽって何のことだろう。私にしっぽなんて生えていないのに。
あれこれ考え過ぎたせいか頭がガンガンしてきたから、一旦眠ることにした。授業中だけれど。
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