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ラッキーとエミリィが、家の前の階段を降りていく。私はあとをついていく。家から十メートルほどのところに、アトリエ兼物置きとして使われていたらしい石づくりの小屋が建っている。そこをぐるりとひと回りして、帰ってくる、それが一日に二度の散歩コースだ。
エミリィの後ろ姿をながめながら、私は、ここにくる前に住んでいたオレゴン州の住居を思い出す。
こことは対照的に、緑の森林が、家の背後にまで迫っていた。
その森林の中に、前回のスーザンと、前回のエミリィと、前回のラッキーの死骸を埋めてきた。
あれは失敗だった。
調教を急ぎすぎたのだ。
まだ家族になりきらないのに、信用して、油断し、逃げられそうになった。
だから殺すしかなかった。
――いや、やめて、お願い。撃たないで。
そう懇願する女の頭に、鉛の弾丸を撃ちこんだ。続いて娘にも、犬にも、撃ちこんだ。何発も、撃ちこんだ。みんな、血まみれになって、死んだ。
とても悲しいできごとだった。
今度は同じ轍は踏むまい、と私は心の中で誓う。
この新しいエミリィを、ゆっくりと、ゆっくりと調教する。その間に、充分に時間をかけて、新しいスーザンとなるべき女性を探す。そして連れてくる。
連れてきても、大人であるスーザンは、簡単には調教されないだろう。だから、二年でも、三年でもかけて、飼い慣らす必要がある。
忍耐強い調教は、やがて必ず報われる。
美しい妻のスーザンと、可愛らしい娘のエミリィと、忠実な犬のラッキー、それに私を加えた、三人と一匹の、すてきな家族の暮らしが待っていることだろう。それがいつになるかはわからないが。
エミリィたちについて小屋のまわりを歩きながら、私はまぶしい日ざしに目をすがめた。
〈了〉
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