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子供部屋の外に立った。
ドア越しに、中から声が聞こえた。子犬が、くうん、と鳴く声と、小さな女の子の話し声。話の内容までは聞き取れないが、エミリィが子犬のラッキーを可愛がっているのだろう。ラッキーのしつけは、彼女にまかせてある。
私は紳士的にノックしてから、ドアをあけた。
エミリィは、入り口に立った私を見ると、怯えたように身をこわばらせ、ラッキーを抱きしめた。ピンクの花柄模様のワンピースを着たエミリィが、膝をついて子犬と抱き合っている姿は、全体でひとつのぬいぐるみのようにも見えた。
「どうしたんだ、エミリィ?」
呼びかけながら、ゆっくりと部屋の中へ入っていく。必要以上にエミリィを怖がらせないように、できる限りの笑みをつくる。
しかし、私の努力はむなしく、エミリィはラッキーを抱きしめたまま、こわごわとした目でこちらを見上げている。
ラッキーは何がどうしたのかわからないらしい。とまどったように首をふって、エミリィを見たり、私を見たりする。
「どうしたんだ、エミリィ? 何をそんなに怖がっている? パパだよ? さあ、こういうときには、どう言えばいいんだったかな?」
そう尋ねると、しばらくして、エミリィの口が震えるように小さく動いた。言葉を発したのだ。でも、小さすぎて、聞きとれない。
「ん? 何かな? よく聞こえないよ」
耳に片手でラッパの形をつくって見せると、エミリィは少しだけ大きな声で返事した。
「……パパ」
「そう、パパだ。いい子だねぇ、エミリィは。ちゃんとパパの言いつけ通りに、ラッキーの面倒をみてくれてたんだね」
エミリィが子犬と目を合わせる。子犬が、ペロリとエミリィの鼻を舐めあげた。
「ママは?」
「ん?」
「ママに……会いたい……」
私と目を合わせずに、ひとりごとのように言う。
私はいらだちそうになる気持ちを、できるだけ抑えこむ。
「だから、言っただろう」
とたんに、エミリィがピクリと身体を震わせた。
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