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外した首輪を、床に置く。首輪は鎖でベッドの脚につながっている。
エミリィは信じられないものでも見るように、私を見上げた。ここに連れてこられてから、ずっと首輪でつながれていた。外されるのは初めての経験だから、無理もない。
もちろん、首輪がなくなったからといって、エミリィがただちに逃げ出すことはない。これまで、ひと月にわたって調教してきた成果を確信しているから、こうしたのだ。
痛みを与えるばかりが、調教ではない。
締めつけ、緩め、また締めつける。それが調教のコツだ。
私は笑みをつくって、エミリィを見ている。
彼女は、本当に私を信じてよいものかどうか、判断に迷っているようだった。
「大丈夫だ。これまで、エミリィが良い子でいたご褒美だよ。ほら、散歩に行きたくないのかな?」
そう言うと、エミリィはあわてて立ちあがった。ぐずぐずしていて、せっかくのご褒美を取り上げられては大変、と思ったのだろう。ラッキーの首輪についたリードを引いて、部屋の外へ出た。そのまま階段をおりていく。おりる間も、リードはしっかりと握っている。リビングの横を抜け、家の出口に達する。
ラッキーが立ち止まって、催促するように、エミリィのほうをふりむく。
エミリィがドアを押し開けた。
とたんに、外へ飛び出そうとするラッキー。
エミリィはしっかりとリードを握って離さない。
出口をくぐると、外には、草も木もまばらにしか生えていない、荒れた丘陵の風景が広がっている。陽は高く、家の真上にあって、強い光をふりそそいでいる。
すぐに階段を下りていこうとするラッキーを、エミリィがリードを引いて止める。少し首をまわして、あたりの風景をながめている。
彼女がなにを考えているのか、私にはわかる。
ここから逃げる方法はないのだろうか?
だれか、助けに来てはくれないのだろうか?
そんなところだろう。
残念ながら、そんな期待は、するだけ無駄というものだ。
近所に家はない。低い丘を越えて、町まで車で四十分以上かかる。エミリィの脚で逃げられるような場所など、どこにもない。
また、この家には、昔、変人の絵描きが住んでいたらしい。画家は人嫌いで、町の人ともつきあいがなかったという。
家を買いとって、引っ越してきた私も、少なくともいまのところ、町の人と交流するつもりはない。だから、友人がやってくることも、考えなくてよいのだ。
エミリィは落胆したように肩を落とし、リードをふってラッキーに合図した。
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