<1・イツノマニカ。>

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<1・イツノマニカ。>

 一緒にインターハイに行こう。今年こそ、佐渡高(さどこう)バスケ部を日本一にしおう。――友人達とそう誓いあったところまでは、覚えている。 『とにかく練習するしかねえな!』  自分、雪風アンリは確かに友人たちにそう言った。平均的な体格であるせいかゴール下の競り合いにも向いていない。ちまちまと外側からシュートを入れるしかできないのにSFをやっているという不器用人間だったが、今年こそは苦手な“内側”での戦いもこなせるようになろうと考えていたところだった。  同時に、いつまでも脳みそ筋肉なプレイばかりもしていられない。元々はポイントガードになりたいと思っていたのに、落ち着いて周囲を見ることが下手だったせいで希望のポジションにつけず、他のポジションを希望していた別の仲間に任せることになってしまった経緯がある。実に情けない。数少ない、中学からの経験者だというのにだ。  自分達のチームはまだまだ県大会を突破できるかできないかレベルというところで、ようは日本一など程遠いことはわかっている。全体的に未経験者や小柄な人間が多いのも事実。それでも、優勝という夢を諦めたくないメンバーが揃っているのは確かなこと。  ゆえに、春から猛特訓を重ねてきたのだ。夏休みになったら、合宿してひたすら練習しようと話をしたばかりのことだったはずだ。 『俺が、絶対お前らを優勝に導くからな!キャプテンじゃないけど、気持ちはキャプテンで!』 『ははははは、雪風は相変わらず熱血だな。お前の場合は、練習よりもその前にうっかりトラブル起こさないかどうかが心配だけど。駄目だぞ、暴力沙汰は。いくらいじめっ子を助けるためといっても』 『う、わ、わかってるってば。気を付けるよ、これからは!』  そう、学校の体育館にいたはずだ。  それで笑いながら友人に注意されて、今日はもう終わりにしようかという話になって。それで――そのあとは、どうなったんだろうか。  着替えるために体育館を出て、ロッカーに入ったのは確か。だが、学校を出たかどうかがわからない。いつも通りなら友人数人と一緒に、駄弁りつつ門の前で別れたと思うのだが。 ――俺、どうなったんだ?一体、何がどうしてどうなってるんだ?  わけがわからない。  今、アンリは奇妙な場所にいる。真っ白な、まったく見覚えのない部屋で。
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