序章

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序章

「本日は、ご来場いただき誠にありがとうございました」  満員御礼。述べ千八百席ある名花劇場は、割れんばかりの拍手の音に包まれた。  観客の一人が目頭を熱くさせながらその場の席を立つ。いつしか劇場はスタンディングオベーションとなり更に盛大な拍手を送った。  舞台の垂れ幕が下がり「本日の公演は以上となります」というアナウンスが流れもなお、拍手が鳴り響いたと思えば、今度は示し合わしたように同じテンポを刻む。  しばしの間、幕が上がるとステージ全体が照明で照らされた。本日三度目のカーテンコールだ。ステージに並ぶ役者達は、中央の主演役者に合わせてお辞儀をすると、それぞれが客席に向かって手を振る。  名残惜しさを感じつつも遂に幕切れだ。再度アナウンスが流れ始めた頃には、劇場内も明るくなり帰り支度が始まった。「今日も麗しい姿だった」「一段と歌声に磨きが掛かってた」「次のチケットはいつ頃販売だろうか」と感想を述べ合う観客はまだ夢現のようで興奮気味だ。
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