落ちこぼれ君と最弱君

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「どういうことか、説明しろよ」 へとへとに疲れ切って、ソファに沈み込んだままギルはアーヴィスに言った。 あの後、わけも分からぬまま、「騎士」と呼ばれ、豪華絢爛な衣装に着替えさせられて、連れていかれた先は、王座に座ったアーヴィスの隣りだった。 そのまま、国民へのお披露目。 あらゆる儀式をこなして、王宮に押し込まれたところだった。 アーヴィスといえば、ベッドに寝そべりキセルをふかして書物を読んでいる。 場所を無視さえすれば、館にいた時と変わらぬ風景だった。 ギルの言葉にパタンと書物を閉じる。 「魔力をもたない私がなぜ幽閉されたのか、ずっと疑問だった。それをずっと調べていた」 アーヴィスはギルに向かって話し始めた。 魔力をもたない者は、歴史を紐解くと今までも何人もいた。 15歳をすぎても魔力がない場合は、虚の館に幽閉される。 そして、新しい王が決まると、ゼロ地点の神殿で新王の即位とともに生贄に捧げられる。 なぜ虚の館のものは死ななければいけないのか。 「それには理由があったんだ」 「どんな」 「虚の館の者はある条件が揃うと、王になるんだ。だから新しい王は脅威を取り除かなければならない。最初の仕事として」 「そんなの今まで聞いたことないぞ」 「レアケースすぎるからね。そもそも魔力のない者が生まれる確率が低い。その上条件が揃うのもさらにレアだ」 「条件ってなんだ?」 ギルが尋ねれば、苦笑しながらアーヴィスはギルを指さした。 「君だよ」 「俺???」 「魔力が一切ない、無力の王を助けたいと願う、『騎士』の出現だ」 ギルは自分が変化した時を思い出す。あの時の記憶は曖昧だった。 ただ、焼けるような熱さと、強い思いだけがあったのは確かだった。 「それにしても、これ、外れないのか?」 ギルはうんざりしたように、首輪を引っ張った。 「ああ、ごめんね。外れないんだよね」 「はあ? マジで?」 「騎士の印みたいなもんだから」 申し訳なさそうにアーヴィスが言う。 ふと、ギルの脳裏に閃くものがあった。 「お前、もしかして、俺を館に留めたのって…」 「悪い。でも、断って旅に出ると言っても引き止めなかったよ」 アーヴィスはさらにばつの悪い顔をする。 「はーーーー。やられた」 ギルは頭を抱えた。 「本当は分からなかったんだ。書物を読んでも確定はできなかった。穴に落ちた時も、これでいいかなとも思ったんだけど」 「わかったよ…ここまで来たら最後まで何でも付き合うさ」 観念したようにギルは言った。 「助かるよ」 アーヴィスが嬉しそうに笑う。 この顔に弱いのかもしれないと、今更ながらギルは自覚した。 「王様になったからといって、別に魔力が使えるわけでもないからね。私はこの国で相変わらず最弱なままなんだよ。最弱の王様だから皆に助けてもらわないと」 おどけたようにアーヴィスは言う。 「威張って言うことか、それ。しかも館にいたときと変わらないだろ」 呆れて言いながらも、ギルはアーヴィスはいい王様になる予感がした。 そして、もう自分のことを「落ちこぼれ」だと思うこともなくなった。 自分の力を必要としてくれる人間がいる。 それだけで十分だったから。 何処かから零れ落ちたとしても、別な居場所があるならば、落ちこぼれなんかではないのだ。 おわり
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