落ちこぼれ君と最弱君

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「失礼します。軽食をお持ちしました」 ミレーヌが小さな食事カートを引いて、部屋に入ってきた。 ギルの座っているソファ横のテーブルに、サンドイッチ、スコーン、ジャム、ハムとチーズ、温かい紅茶の入ったポットを置き、また部屋を出て行った。 「ほら、君に熾してもらった火で作った食事だ。遠慮せず食べたまえ。どうせ何も食べていないんだろう?」 何一つ、言い返す言葉が見つからず、幾度か口をむなしくパクパクさせた後、口を閉じた。 今まで食欲など全く湧かなかったが、食べ物を目の前にした途端、腹が鳴った。 単純な自分に気が抜けつつ、サンドイッチに手を伸ばした。 「それで、選考会の再開はいつなんだ?」 「追って連絡だと」 「誰に決まると思う?」 アーヴィスの言葉に食事の手を一旦止めて思考を廻らす。 「そうだな…妥当なところでブラハードあたりに落ち着くんじゃないか? ロゼも悪くないが未だに女の統治者を認めない上層部の人間も多いからな。アエラスは論外だ。人格に問題ありまくりだし、今回俺のやらかしに一役買ってる。印象はよくないはずだ。ざまあないな」 ギルはそう言って笑って、水を飲み干した。 アーヴィスは微笑し、寝台を下りギルの前に立った。 タンブラーから空のコップに水を注ぎギルに手渡す。 腕に幾重にも付けられたリングがぶつかり合って音を立てた。 その中に、白い太めの腕輪に気づき、一瞬ギルは身を竦めた。 「ああ、悪い。これ苦手だったな」 「いや…別に平気だ」 憮然としたままギルは改めてグラスと受け取り、一口飲んでテーブルに置いた。 アーヴィスが付けている腕輪の一つが、ギルはなぜか苦手だった。 銀でできた腕輪には鳥のよう彫刻がある。 それを見ると心がざわめくのだった。
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