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「アーヴィス様…」
「ありがとう。お前にも世話になったな」
外套を受け取り羽織る。そして身をかがめてミレーヌを抱きしめた。
ミレーヌは首を何度も横に振り、頬には幾筋もの涙が伝う。
「私が居なくなったら、机の引き出しを開けなさい。手紙が一通あるから、それを持ってその宛名の主を訪ねるんだ。きっとお前の力になってくれる」
「…い、やです。わたくしはアーヴィス様のお傍にずっとお仕えするつもりです」
涙声でミレーヌが言う。その言葉に、痛みをこらえるように目を瞑り、ミレーヌの背中を難度が励ますように叩き、立ち上がった。
「アーヴィス、一体…」
まるで今生の別れのようなアーヴィスの様子に、ギルは戸惑い立ちすくんでいた。
そんなギルの様子に、アーヴィスは苦笑する。
「ギル」
「なんだよ…」
「ギルのおかげで、短い間だったが楽しく過ごせたよ」
「そ、んな」
「私のような者は、この館で静かにみな一生を終えてく。別にそれでもいいと思っていた。けれど友がいるということがこんなに素晴らしいとは思わなかった」
何か思い出す世に目を細めて微笑み、アーヴィスはギルを抱きしめた。
「私の友人でいてくれてありがとう。元気で」
あまりのことに戸惑っているうちに、体温が離れる。
そして、アーヴィスは衛兵に囲まれるようにして、闇の中館を出て行った。
ギルとミレーヌはただ、立ち尽くして見ていることしかできなかった。
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