落ちこぼれ君と最弱君

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悪夢だ。そう思った。 ギルは目の前で行われようとしていることが、まるで現実のものとは思えなかった。 ただ、自分を押さえつけ、地面に組み伏せている何本もの腕が、軋む体が、痛みがこれは現実だと否応なく伝えてくる。 王城が浮かぶ宮殿の真下にある、ゼロ地点。 そこには、崩れかけた古来から存在する小さな神殿があるだけだ。 今その神殿の中央に掘られた大穴の上に突き出した祭壇に、アーヴィスがつり下がっていた。 白い簡素な服を身に着けただけの恰好をしている。 穴の周囲には、四家の長と後継者、神官たち。そして新王となったブラハードが祭壇に跪いている。 館からアーヴィスが連れ去られた後、夜が明けて早々にギルの屋敷から使いが来た。 新王の即位式があるから必ず出席するようにということだった。 勘当されたような落ちこぼれの飾りでも、役目は果たさなければならないらしい。 重い足取りで屋敷に戻ると、連れていかれたのがこのゼロ地点だった。 祭壇の上から吊り下がったアーヴィスの姿が目に入った途端、飛び出そうとしたところで、周りの兵に押さえ込まれた。 神官が何かを読み上げ、王冠をブラハードに授ける。 ブラハードは立ち上がり、叫んだ。 「神よ。新しい時代のための供物をお受け取りください」 その言葉の後、刀を持った武人がアーヴィスの綱を今まさに切り落とそうとしていた。 「アーヴィス!!!」 助けに行こうと体に力を入れるが「無駄だ!」とさらに押さえ込まれる。 ふと、アーヴィスがこちらを見て微笑んだように見えた。 「駄目だ…駄目だ、アーヴィス!」 落ちこぼれだと言われ、父親のみならず、誰一人自分を相手にしなかった。 その中で、アーヴィスだけが、自分を頼ってくれていた。 必要としてくれていた。 誰かの力になれる喜びを教えてくれたのは、アーヴィスだけだった。 「今、行くから」 だから、絶対に助けなければいけない。
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