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「待ちな。武門の誉たあ、まるで騎士みてえな物言いだな……一人で俺を訪ねて来るだけでも大した度胸だ。離してやんな」
いや、無知とは怖いもので、こんな目に遭うとは知らずに来ただけなのだが、うっかり出てしまった地の言葉遣いが気に入られたらしく、ドラコはドスの利いた低い声で輩達にそう命じる。
「オス! 頭がそう言うんでしたら!」
「てめえ、頭に感謝しろよ、コラ!」
その指示に驚くほどあっさりと輩達は身を退き、俺は運良くも命拾いしたようである。
「で、聞きてえことってのはなんだ?」
直立不動で配下の輩達が左右に分かれて居並ぶ中、酒樽に座り直したドラコは鋭い眼光で俺を見据え、威圧感ハンパない声色でそう尋ねてくる。
「あ、は、はい! そ、その…禁書の秘鍵団の 魔術師船長のことなんですがぁ……」
その重たい空気感に正直ビビりながらも、俺はおそるおそる、これまでのように同じ質問をドラコにもぶつけてみた。
「──ああ。ヤツはヘタレ中のヘタレだ。ケンカなんかできたもんじゃねえ。どうしてあんな野郎がキッドマンさんの船を受け継いでやがんのか……」
すると、やはりドラコもこれまでの者達と異口同音な回答を俺に返してみせる。
ドラコの言っている船云々というのは、秘鍵団の海賊船〝レヴィアタン・デル・パライソ(楽園の悪龍)号〟のことだ。今はずいぶんと魔改造が施されているが、もとは大海賊キッドマンが乗っていた船で、一味唯一の生き残りである魔術師船長がそれを遺言により受け継いだらしい……。
「海賊っつったら腕っぷしが物を言う世界だ。あんなヘタレ野郎がキッドマンさんの後継者だなんて、俺はぜってえに認めねえからな……」
さらにドラコはヘタレ呼ばわりを繰り返すが、最初に騎士団内でも聞いた話の通り、本当に魔術師船長は昔からヘタレであったらしい……それが紛うことなき事実であることはよーくわかった。
しかし、それだけではまだ大きな謎が解けていない……なぜ、そんなヘタレが大物海賊の船長になり得たのか?
けっきょく、その謎は解けずじまいなのかと思ったその時。
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