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「…グヘヘヘ……ハッ!」
唖然と石のように固まったまま、ドアの傍で俺が見つめていると、彼女もようやくにして俺の存在に気づいた。
「あ、あなた!? ……見ぃ〜たぁ〜わぁ〜ねぇ〜…」
「ひっ…!」
俺に気づいたメデイアさんは顔色を一変させ、なんとも恐ろしげな形相で俺を睨みつける。
「……み、見てません! な、何も見てません!」
なにがなんだかわからなかったが、俺はブルブルと全力で首を横に振って全否定をする。
「エンプーサっ! モルモーっ!」
だが、悪鬼の如き凶悪な顔をしたメデイアさんはどこからかトカゲと蛇を取り出し、そいつを床へと放り投げる……すると、その二匹の蟲はみるみる内に巨大化し、青銅の脚とロバの脚を持つ、人の数倍はあろうかという牛角の生えた大トカゲと、下半身が蛇体となった鋭い牙を持つ鬼女へとその姿を変貌させる。
悪魔は半透明に透けているというが、こいつらはまったく透けてねえし、何か儀式をして呼び出したというわけでもねえ……召喚した悪魔ではなく、肌感覚的にも実際にそこに存在する生き物だ。
聞くところによると、どうやら彼女の使い魔らしいという話なのだが、こんなもの、本当に魔導書の魔術で造り出せるものなのか? どう見てもこの世のものとは思えないんだが……。
「シャァァァ…!」
「今見たことを誰かに喋ったら……わかってるわねえ?」
そして、二体のバケモノをけしかけながら燃えるように赤い瞳を俺に向け、ドスの利いた恐ろしい声色でガチな脅しをかけてくる。
「は、は、はい! な、何も見てないんで何も喋りません! し、失礼しまぁぁぁーす!」
いったい何が拙かったのか? まったくわけがわからないながらも俺はうんうん頷くと、本能的に命の危機を感じてその場を逃げ出した──。
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