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エブリスタウン
いつだったか、夫の裕義から都市伝説みたいな話を聞いたことがあった。
どこかにあるエブリスタウンという街。そこではいろんな奇跡が起こるという。いつ誰にどんな奇跡が起こるのかは不明だけど、必要なのは“とにかく強く願うこと”らしい。
でも、なんで私がクマ(それもぬいぐるみ的な)になってしまったのかわからない。
_____あ、ということはもしかして……
一つの推測が頭に浮かんだ。
「ね、ヒロ君はもしかしてヒロヨシ君?」
「うん、そうだよ、なんでわかったの?」
クレヨンを握りしめたその右手の甲に、小さな星形のホクロを見つけ、私は推測が当たったと確信した。
「ヒロヨシーっ!」
私は思わずそのヒロヨシを抱きしめた。もふもふの茶色の毛の中で、小さなヒロヨシはバタバタともがいていた。
「うわっ、なんだよ、やめてよ」
「会えた、会えたよ、やっと会えた!」
「ちょっ、なんのこと?やめてったら」
「あ、ごめんごめん」
抱きしめていた腕の力を緩めたら、するりと抜け出した子供の裕義。
なるほど。
この年齢の裕義だと私はまだ生まれていないんだ。だからクマになったのか。
時間の流れがどうとかタイムリープがどうとか、難しいことはわからないけれど、大人の私が子どもの裕義に会ってはいけないのだろう。私と裕義が初めて出会ったのは、私が21歳、裕義が35歳の時だ。
「ヒロ君は今、何歳?」
「8歳、3年生だよ」
「うそ、なんか小さくない?1年生かと思ったよ。さっきのダイスケ君も同じなの?」
「そうだよ、同じクラス。マユちゃんも」
小さいと言われたことが癪にさわったのか、ムスッとした顔になる。
「ごめんね、小さいって言って。でも大丈夫だよ。ご飯をたくさん食べて、いっぱい遊んだらとっても大きくなれるんだから」
_____私をすっぽり包めるくらい、大きくなるんだからね
私は、目の前の子どものヒロヨシを見ながら、大人になった裕義の大きな背中を思い出していた。
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