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それからも、ヒロヨシは時間を見つけては私がいる廃工場にやってきた。成長したから色々忙しいのか、ここにやって来るのは数日おきになった。私はどうやらこの廃工場から出ることはできないようで、ヒロヨシがやってくるのを待つだけだったけれど、寂しくはなかった。
どういうわけか、ヒロヨシが来ない日はずっと眠っていて、ヒロヨシがやってきた時だけ目が覚めていたから、待ちくたびれることもなかったし。
その日も、部活を終えたヒロヨシはやってきた。
「カヤン、いる?」
「うん、こっちだよ」
いつものように、ヒロヨシの気配で目が覚めた私は、高い位置の窓から差し込む日差しで日向ぼっこをしていた。
「おかえり」
「ただいま」
まるで家族のような挨拶だけれど。
「あのさ、カヤン、チョコ好きだったよね?」
「うん、大好き」
「じゃあ、コレ、あげるよ」
そう言いながら、持っていたスポーツバッグからガサガサといくつかの包みを取り出した。
「え、なになに、コレ。あ、そっか、今日はバレンタインだ」
「そう。俺、あんまり甘いの得意じゃないからさ。カヤン、食べてよ」
ヒロヨシは、中学生になって陸上部に入って、中距離ランナーを目指していた。屋外での練習が多いからか、いい色に日焼けしている。初めてここで会ったあの幼かったヒロヨシは、背も伸びていつのまにか私を少しだけ追い越していた。
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