虹の橋を越えて

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 そう私に伝えた彼は、瞳にまた涙いっぱい浮かべている。  それでも私に会えて嬉しいんだと、表情から、全身から伝わってくる。  声にならない声が。  イチコちゃん、イチコちゃん、って。  ぽん、と。彼の頭に触れてみる。  ふわふわの柔らかい髪。  初めて見た時から、何故だか触れたかった髪。  そっか。だから私は、触れたかったのかな。  そっと、優しく髪をとくように、何度も何度も触れてみる。  撫でるたびに、愛おしさが増していく。 「こたろう?」 「そうだよ。イチコちゃん」  私の手にすり寄るように頬を寄せてくる。  そのまま頬を撫でてあげれば、気持ちよさそうに目をつむる。 「こうしてイチコちゃんに触れられるのも。いっぱい遊んだ事も。全部覚えてるよ」  ずっと一緒にいた。いっぱい一緒に走った。  お布団の中で一緒に丸まって。毛布なんかなくたって、こたろうがいればそれだけで温かかった。 「一緒にいられて幸せだった。大好きだったよ」 「私も、こたろうが大好きだったわ」  いなくなってから、その寂しさはなかなか埋まらなかった。  友達と遊ぶのは楽しい。お母さんが抱き心地のいいぬいぐるみを買ってくれて、抱きしめて眠る。  だけど、そのどれも。こたろうの代わりになんて、ならなかった。  時間をかけてゆっくり、ゆっくり。  こたろうがいない事に慣れていった。  でも、忘れたことはなかった。  こたろうと歩いた散歩道でタンポポが咲けば、こたろうの事を思い出した。  雷の鳴る日は、頭から布団をかぶって、こたろうの事を思うの。  そのこたろうが今、目の前にいる。  私に会いに来てくれたって。ずっと探してくれていたって。 「ありがとう。会いに来てくれて」  その言葉を聞いて、くしゃくしゃって彼が笑った。  
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