虹の橋を越えて

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 ふぅ、なんとか座れた。  いつもの電車を寸前で逃し一本後の電車に乗り込むと、座席はほぼ空席なし。  これが嫌で一限がある日は、一本はやい各駅停車の電車に乗る。各停だとまず座れるし、こんなに混まないから。  その各停は途中で今回乗ったこの急行が追い越していくから、乗り遅れたけど、到着は早くなるという、いいんだか悪いんだかな現象。  通勤通学の時間帯であるこの電車。朝七時という早い時間帯に乗る高校生は部活かな? それともテスト前の朝勉? テキストを開いている子もいれば、スマホに夢中になっている子もいる。  私も三年前まではこんな風にテキストと睨めっこする時、眉間に皺寄せてたのかな。もう着ることがない制服が、眩しく見える。  通勤だろうと思われる親と同世代の人たちは、腕を組みながら居眠りをしている人も多い。  そんな人たちの様子を見つつ、車窓から流れていく景色が朝日に照らされていくのを見つめるこの時間が、好き。  川に朝日が反射してキラキラする。一瞬その水面の輝きに心奪われていたんだけど、ふと、視界の端に何かが映った。  ……私の左斜め前。  ふわふわの茶色い髪の毛が、ゆらゆらと揺れている。  長い足を窮屈そうに折り曲げて、うつらうつらと漂っていたけれど、支えきれなくなって隣の女性へと体重を預ける形になる。  女性は困った顔をして、少しためらいながら頭を押しのけた。支えを失った頭は、しばらくゆらゆらとして、また女性の肩に戻る。そんな事を繰り返しているのを、申し訳ないけどほほえましく見ていた。  制服を着ているから、高校生だろう。彼の頭がもたれかかるたび、ふわふわの髪の毛が女性に当たってくすぐったそうにする。その髪の毛を見ていると、何故だか『くしゃくしゃっ』ってしたくなる衝動にかられた。  いきなりそんな事をしたら不審者だ。でも、やってしまいたい。  電車が徐行しはじめた。  よかった。不審者になる前にさっさと降りてしまおう。  電車が止まるより早く、座席から立ち上がりドアの前へと向かう。男の子の前を通り過ぎる時、何故だか、きゅっと切なくなった。  なに、これ? なんでこんな気持ちになるの? 「……イチコ、ちゃん?」  ふわふわ髪の彼が、寝ぼけ眼をこすりながら、私に笑いかけた。
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