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「イ、イチコ、ちゃん?」
触れてみると、ふわふわの髪の毛は柔らかくて、気持ちいい。
何故か最初から触れたかった髪。
そっと触れていたものを、少しずつ手のひら全体で髪をとくように撫でていく。一度触れると止まらなくて、そのまま撫で続けてしまう。
「ふふっ。柔らかい」
私の反応に驚いたか、彼の瞳は大きく見開かれて、流れ続けていた涙はせき止められた。それでも今まで泣いていた分、瞳は一層ウルウルとしている。
「イチコちゃんの手、気持ちいい」
撫で続ける私の手に次第とほぐされていき、嬉しそうに彼は、ふにゃんと表情を崩す。
「それ。なんで私の名前を知っているの?」
「なんでって」
「名前って言うか、呼び方。私の名前は本田伊智。『イチコ』って呼び方は両親が呼ぶときに使う以外、呼ばれたことがないわ」
友達は、伊智、いっちゃん、いっちーなんて呼んだりするけど、『イチコ』は両親が小さい頃呼んでいた呼び方だ。
彼の膝から身体を起こして、正面から向き合う。
「あなた、誰なの?」
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