33人が本棚に入れています
本棚に追加
私の問いに、彼は包み込むような優しい笑顔を浮かべた。
「さっき。イチコちゃん、呼んでくれたよ」
「さっき?」
「目を覚ますとき。覚えてない?」
確か遠くで鳴き声が聞こえた気がして。
無意識だったけど、呼んだのは……。
「こた……ろう?」
小さい頃。うちの家族だった『こたろう』。
ちっちゃくて、ふわふわで。
遊ぶのも一緒。お昼寝も一緒。
一番の友達でもあり、大切な家族だった茶色い子犬。
私が五歳の時、病気で死んじゃった。
「そう。『こたろう』だよ。イチコちゃん。イチコちゃんに会いたくて、ずっと探してた」
「うそ……。そんな事、あるはずない」
死んじゃった犬が、人に生まれ変わるなんて。
そんな事あるはずがない。
「そっか。私、夢見てるのね。さっき倒れて、そのまま今、夢を見てるんだ」
「夢じゃないよ」
「そんなわけないじゃない」
「じゃあ、僕しか知らないイチコちゃんの事話したら、信じてくれる?」
「……え?」
私の戸惑う声を彼は了承と捉えたのか、にっこりと微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!