33人が本棚に入れています
本棚に追加
「イチコちゃん、一人っ子だから家にいるといつも僕と遊んでくれたよね。いっぱいボールも投げてくれたし、お散歩も一緒に行ったね」
「そんなの、犬を飼っていれば誰だってすることじゃない。誰にでも当てはまるわ」
私の否定にもまったく動じず、彼は言葉を続けていく。
「イチコちゃん、雷が嫌いだったよね。怖いってよく僕の事抱きしめて一緒にお布団に丸まったね。お母さんが使っているお化粧品、こっそり使って見つかって、怒られて泣いたこともあったね」
「そ、それだって、子供ならある程度当てはまる事だわ」
確かに、雷は怖かった。今でもちょっと苦手だけど。
でもそれだって、私とこたろうに限った事じゃない。
「……僕が病気で動けなくなった時、イチコちゃんは最後まで信じてくれたね。『元気になる!』『また一緒に遊ぼう』って。僕の最期まで、イチコちゃんはずっと傍にいてくれた」
……その時の事は、覚えていない。
幼かったというのもあるし、ショックで記憶から消してしまったのかもしれない。だけど、お母さんから聞いたことはある。私はこたろうから最期の時まで離れなかった。そして……。
「お母さんに『こたろうと最期のバイバイしようね』って言われて、イチコちゃんは僕を撫でて言ってくれたんだ。涙いっぱい浮かべながら、『きっとまた、会おうね』って」
大きな瞳を潤ませて、満面の笑みを浮かべる彼。
「だから僕は、またイチコちゃんに会いたかったから、人間に生まれ変わったんだ」
最初のコメントを投稿しよう!