スラム育ちの死霊魔術師と宮廷育ちのわがまま王女

4/8

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
その日から僕達家族は、これまでより少し、贅沢な暮らしができるようになった。副菜がひとつ増えたり、肉の質がワンランク上がったり、新しい布で服を作ったりできた。これも全て、父親の腹踊りのおかげだと思うと面白おかしいが、本当に感謝しか無かった。父親は僕達のために、体を張って今でも宮廷で頑張っているのだろう。僕も父親のように頑張りたいと思った。父親が家に帰らない今、この家族を守るのは長男である僕しかいない。その責任感があった。 そんな贅沢な日々が、いつの間にか半年が続いた頃、唐突にその日々は終わりを告げた。 ある日、この家に、滅多にない来訪者が現れた。それは、配達員だった。配達員は、被った帽子のつばを触ってから、腰に携えたポシェットから一つの郵便を手渡された。 なんだこれ。 配達員は、何も言わず手渡した後そのまま去っていった。 母親も、ジョシュアもノアも何事かと寄ってきて、その郵便を見つめている。 僕はその中で、その郵便を開いた。その郵便の中には一枚の紙が入っていた。その紙に書かれていた文字を見て僕達は、一瞬にして青ざめた。 死亡通知書エイブラハム・ゴルドベルク 宮廷に勤めていた昨日行われた防衛戦線でゴルドベルク氏が死亡したことを通知する。 この通知に、僕は頭が真っ白になって、立ち尽くした。父親が死んだことで、母親もジョシュアもノアもわんわんと泣いたが、僕は泣けなかった。このささやかな毎日が失われたこと、そして家族を支えていた父親が居なくなり、僕が一家を本格的に支えなければいけなくなったこと。その責任感とこれからの事で頭がいっぱいで父の死を悲しむことが出来なかった。本当は、自分も死ぬほど泣きたい気持ちだった。でもそれは今は、しまわければならない。そうでなければ、支えていけない。家族の命は僕にかかっている。泣くのに時間を割くよりもまず、働かなければならない。 僕はこれまで以上に働き始めた。より、時間を多くそして、お金の多い、危険な仕事もやるようになっていた。そんな仕事の毎日に神経をすり減らしながら、僕は、僕が妄想した父が死んだ時の情景の悪夢を何度も見るようになっていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加