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僕は、あの日死んだ。そして、始まった。
死は、人生が終わる瞬間だと、誰に教わるわけでもなく人間の常識として、自明のことであったが、まさかこれが自分によって覆されることとなるとは思いもよらないことであった。
「おい、お前こっちも手伝え」
「はい!」
僕は、毎日毎日同じように、畑仕事をしていたが一向に慣れずに、今日もクタクタだ。一時の休みも与えられず、それどころか、他人の仕事を手伝わないといけない。もしサボっているのが見つかれば給料なし。お金がかかっているから手を抜くことも出来なかった。
僕は、夜更けまで畑仕事をして、後払い決済ではなく、日雇い給料を握りしめて家まで帰る。家と言ってもスラム街にある木と藁で作られた納屋のような小さな秘密基地だ。その家が見えてきて、いつものように出迎えてくれるのは母親と兄弟たちだった。
「ザックおかえりなさい」
「ただいま。今日も疲れたよ」
「兄ちゃんおかえり!」
「ジョシュア元気だな。今日はご馳走か?」
そう言って台所を見ると、今日はステーキだった。
「おお、ステーキじゃないか!」
「そうなの。今日、たまたま商人の方が格安で売ってくれたから」
と母が言った。
僕は帰って早々そのステーキを頬張った。平たく、スジが多い決して味も見た目も良くない肉で臭みも強かったが、たとえ腐っていたとしても肉は肉。有難いことにこの上なかった。
僕は、いつも川で汲んでくる泥水をろ過させてから煮沸し、茶葉を入れた紅茶で喉を潤した。
本来であれば、臭みの強い水も、こうすれば紅茶の良い匂いがかき消してくれるのである。
「今日もお父さんかえってこないね」
ジョシュアが言った。父のエイブラハムは僕たちのために家に帰らず仕事をしていた。そのおかげで僕達は生きてこられた。父は仕事場で寝泊まりし、お金は最近普及した銀行という仕組みで僕たちの元へ届けられた。僕はご飯を食べ終え、奥の狭い寝室へ行くと、ベッドにはノアが寝ていた。僕とは4つほど離れた妹で、今年13になる。僕はそっと隣のベッドに腰かけたつもりだったが、その少しのきしみでノアは目を覚ました。
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