お願いだから止めて

1/1
前へ
/9ページ
次へ

お願いだから止めて

 確かに俺の使った剣は魔王の防御魔法を切り裂き、トドメを刺した。そして俺が死んだとき墓の脇に埋められた。  けれど埋葬されてからしばらくして、盗賊に掘り起こされ盗まれたのだ。  勇者の剣が盗まれたとあっては、村の面目がたたない。ということで当時の村長は事件を誤魔化すことにした。偽物の剣を作り、墓に埋めたのだ。  剣を土に埋め、一息ついた村長たちは、まさか一部始終が勇者本人に見られていたとは知る由もない。  死後のことだから、誤魔化したことについては何も言わなかったが、当然腹はたった。だから魔法で突風を起こし、村長のズラを落としてやった。  そういう事件があったので、今アレンが持っている剣は何の変哲もない、ただの古びた剣だった。  もちろん孫が知るはずもないが。   案の定、孫は剣を弾き飛ばされた。そのままうずくまった孫は、ゴブリンに足げにされている。 「痛い! 馬鹿! やめて!」  情けない泣き言を叫び、ゴブリンにいじめられている。  見ていて気分のいいものではないが、俺には手を貸す理由はない。孫とはいえ、生きる時間が五十年も違うのだ。ほぼほぼ面識もなく、赤の他人と言っても差し支えはない。  幽霊になってまで手助けするほどお人好しではない。仮に野垂れ死をしたところで、それはそいつの人生であって、俺がとやかく言うことではない。  さっさと終わって、向こうに行ってくれ。  そんなことを思いつつ、ふと嫌な考えが思い浮かんだ。  本当に野垂れ死をしたらどうなる?  もし目の前の意気地なしがゴブリンに破れたとしよう。そして不幸にも命を失ったとしよう。  孫の霊がここに現れるのではないか?  しかも俺の剣を掘り起こすほどの厚かましいやつだ。下手したらここに居座り続けるのではないか?  ここは勇者の墓だ。自分で言うのもどうかと思うが、割と優れたパワースポットだ。ならば居心地がいいから、などと言って寝ぐらにしてもおかしくはない。  やめてほしい。  本当にやめてほしい。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加