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嫌な予感
いや、そんなわけあるか。
お前はさっきゴブリンにボコボコにされていただろ。
この馬鹿孫。勘違いも甚だしいぞ。
ありとあらゆる罵倒が脳裏をよぎるが、孫はどこ吹く風だった。
そりゃあ俺を見ることができず、声も聞くことができない程度の才覚だからな。その程度の能力で、だからそんな勘違いしたんだろうよ!
「土壇場で覚醒したか。俺!」
そんなわけないだろ。目を覚ませ馬鹿。
転がって地べた舐め舐めしてるような奴が、突然才能開花するわけないだろ!
思わず殴りかかるが、当然すり抜ける。実態のないこの体では、張り手の一つも満足にできやしない。
いっそ魔法で吹き飛ばしてやろうか。
目を細め、詠唱してやろうとした時だった。アレンはボソッと口を開いた。
「これで魔王を倒せる」
……魔王?
俺は手を止める。魔王はとっくに死んだはずだ。生前の俺が激闘のすえ魔王を倒し、その城も粉々にしてやった。
そんな疑問をよそに、アレンは剣を強く握りしめていた。
「一ヶ月前魔王が復活して以来、この辺りでも魔物の動きが活発になっている。ゴブリンにはちょっと驚いたが、ふん、なんともなかったな!」
なんともなかった。そういう割には、服は擦り切れているが。
などと皮肉を思いつつ、魔王という言葉が、俺の胸に黒いシミのように広がっていた。
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