それはそれとして面倒くさい

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それはそれとして面倒くさい

 魔王。  かつて世界の大半を制覇した魔族の王。  百万を超える魔族を従え、ほとんどの人間の国を蹂躙した災厄。  奴が復活したというのか? 俺は確かにとどめを指したのに?  ……いや、莫大な魔力を持つ奴のことだ。死んだ体を動かすことも、できなくはないだろう。  アレンは握りしめた剣を真剣に見つめていた。 「勇者の孫である、この俺の才能。そして勇者の剣! これらがあれば、魔王も倒せる!」  そんなわけないだろう。目を覚ませ。頼むから。  しかし俺の声など届くはずもなく、アレンは高笑いをあげて、勇者の墓を背にした。  ……放っておこう。あんなアホに関わるだけ無駄だ。  第一、俺はもう死んでいる。現世のことに関与するなど馬鹿馬鹿しいではないか。  そう思いはするものの、いつまでも響く高笑いには我慢ができず、俺は孫の持った剣に飛びついた。  幽霊は場所に縛られる。俺の場合は自分の墓だった。別にそのことに不満はなかった。人里離れ、ひっそりと静かに暮らしたい。そう思っていた。  頭の底の抜けた、孫が現れるまでは。  彼を放っておけば、一体何をしでかすか分からない。  勇者の名前にも、散々に汚すことになるだろう。それはどうにも我慢ができないことだった。  それに。  例え適当に言っているとはいえ、魔王を倒すと口にした人間を、見逃すことはできなかった。なぜなら俺は勇者だから。  勇者は魔王を倒すものだから。  飛びついた先の剣を握りしめる。  憑依先の転移など、並みの幽霊にできる技ではない。だが俺は勇者。あいにく力は並みはずれている。    たとえ孫の力も、剣もまがい物だとしても、無駄死にをさせないくらいには力を貸してやる。  不愉快極まりないが、そう決意した。
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