一ヶ月後

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一ヶ月後

 一ヶ月がたった。奇跡的に孫はまだ生きている。まだ旅を続けている。  アレンは力も魔力もないが、自信だけは一級品だった。 「砦をオーガが占拠した? 俺が取り返してやる!」  村人から話を聞くが早いか、単身外へと駆け出して行った。もはや止めるのもバカバカしかった。何かしたところで、どうせ孫は気づかないし。  そして案の定、満身創痍の状態で、なんとか村に逃げ帰ってくるのである。 「あんた、本当に勇者なのかい?」  回復用の薬草を飲ませつつ、老年の僧侶が聞いた。それほど見事な負けっぷりだった。  孫は不敵に笑うと、教会の天井を眺めて言った。 「もちろん勇者さ。オーガも倒すし、砦も解放する。そうしないと村が危ないだろう?」 「その調子では、行ったところでお前さん死んでしまうぞ?」 「俺は死なないさ」  体中傷だらけで、説得力が全くないにも関わらず、いささかも自信が欠けてはいなかった。 「見ておれないですな」  そう言ったのは、この村の兵士長だった。僧侶の隣に立ち、ベッドに横たわるアレンを覗き込んだ。 「そんな戦い方をしていれば、命がいくつあっても足りないですぞ」  中年ながら、立派な筋肉を携えた彼は、口ひげをいじりながらアレンに語りかける。それでもアレンは笑みを絶やさなかった。 「だが、俺が戦わなければ、村の女性や子供、老人の命が危うい」  そう言われて兵士長は目を細める。気にせずアレンは続ける。 「オーク達は武器を集めている。今、俺が戦わなければ、この村は無くなるかもしれない」 「だからボロボロの体で、再び砦に行くと?」  兵士長の言葉にアレンはうなずいた。 「……あんたは、底抜けにアホですな」  兵士長はかすかに笑った。 「よろしい。あなたと共に、我が兵も砦へ突撃いたしましょう」  傷だらけの体の孫と兵士長は、互いに見つめあい握手をした。
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