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何も出来ない無力さ
あれから、随分と月日が流れた。
アイツは今も変わらず腑抜けた状態で。母さんたちも暫くアイツの顔は見たくないなんて言ってるし……そう思うとやっぱり──俺がもっと何かしてあげていたらって思う。
こうなってしまった原因は、アイツが優しすぎるせいからで。勿論、してしまった事に深く深く後悔をしているし、反省だってしている。そして、心を閉ざしてしまっている。
そんなアイツを、俺はもう……責めることは出来ない。
いまアイツには、味方の一人もいないから。
せめて俺だけでもアイツの味方になってあげないと。
俺にも一応、責任があるというか……ないというか。
あの子が途切れ途切れで言っていた言葉を、俺は聞いてしまったから。
未だに、あの子が言った言葉をアイツに伝えることは出来ていない。
伝えない方がいいって、勝手に俺が判断したから。
そう判断したのは誰の言葉にも耳を傾けず、意地でもあの子の元に駆けつけてしまうと思ったからで。それをあの子は望んでいないって、また勝手に判断したから。
生きていく中で、知らない方が幸せになれる事の方が多いから。
──コンコン。
ジンジンする程の力でノックをしても相変わらず返事はないし、物音一つも聞こえやしない。
「起きてる? 会社の人からスイーツ貰ったんだけど、一緒に食べない?」
当然、返事は返ってこないから、廊下にシン……とした空気が流れる。
ふぅ、と息を吐き、ドアノブに手をかけながら「入るよ?」と言って、遠慮なくドアを開ける。いつ見ても真っ暗な部屋が視界に飛び込んでくる。その部屋の端にはいつものように黒い塊があり、微かに動いたのが見えたから〝生きている〟のだと確認することが出来て、今日も安堵の溜め息が漏れた。
「ほら見て? こんなに沢山貰ったんだよ。一人じゃ食べきれないって分かるでしょ?」
また静寂に包まれ、俺はいつものように近づいて、布団を勢いよく捲る。そこには生気を全く感じられない顔をしている弟の姿を見て、今日も胸が締め付けられる。
もう、一人で生活するのが困難と見做し、俺の家で二人暮らしを始めたはいいが、会話という会話は一切ない。いつも俺が一方的な会話をしている。
まぁ、それも仕方がないんだけど。
弟は全く寝ていないし、食事も取ってないから余計会話などできない。
昨日よりも目の下のクマが酷くなっている。そんなクマを親指で撫でるが、弟は何の反応も見せない。
こんな事になるのなら、あの時、もっとしつこく電話をかけていればよかった。あの子だって気づいた時に電話をかけていればよかった。
そうしていれば……何か変わっていたかもしれないのに。
無数の後悔しか生まれない。でも、これから生きていくにはそういう後悔は付き物で……だから弟にもそう言わなくちゃいけないのに言えない。
「弘樹……今日も俺の話を聞いてくれる?」
他に言わなくちゃいけないことが山ほどあるというのに、こうやっていざ口を開いてみれば声が出なくなる。
心の中でついた溜め息と共に自嘲した笑みがこぼれ、何も出来ない無力さに、今日も嫌気が差す──。
Fin
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