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「まずは『消化器外科と言ったら橘先生』って言われるくらいにはなりたいですね。今までわたしにとって仕事は自分のステータスでしかなかったけど、今度こそ仕事に対して真面目に向き合おうかなって。諏訪さんみたいに『橘先生が主治医でよかった』って言ってくれると嬉しいし、これからもそう思ってもらえる治療がしたいので。なんだかんだ、この仕事は好きですし」 「頼もしいね」 「あと、四十までには結婚って思ってたけど、それはいったん保留にします。どう考えても厳しいし。まずは好きな人を振り向かせます」 マンション横の細い路地に縦列駐車した槙田先生は、ハザードランプを点けると怪訝な顔でわたしに振り返る。 「好きな人いるの?」 「いますよ」 「……遠野くん」 「だから、遠野くんはあり得ません」 「じゃあ、山本先生。伊藤先生。あー、呼吸器外科の小林先生とか好きそう」  片っ端から独身男性医師の名前を上げていく。わざとはぐらかしているのは敬遠なのかわたしの口から言わせたいだけなのか。ここまで来てもったいぶる必要はない。わたしは至極真面目に、打ち明けた。 「槙田先生です」  槙田先生はフロントガラス越しに外を見つめたまま驚く様子はない。やっぱり気付いていたのだ。 「槙田先生が……好きなんです」
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