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「橘先生、なんか雰囲気変わりました?」
福沢さんにいきなり言われて焦った。自分ではあからさまに何かを変えたつもりはないけれど、浮かれた態度でもしていたのだろうか。
「まず、シャンプー変えましたよね。少し前からなんか香りが違うような。メイクも変えました? 肌艶がいいですね」
さすが流行に敏感な年頃の福沢さんは女の変化にめざとい。いや、だが確かにシャンプーは変えた。メイクも化粧ノリが良くなるクリームに変えた。美顔器も注文した。福沢さんがめざといのではない。確かにわたしは浮かれている。
「最近、睡眠時間増やしたからかな。体の調子がいいのよ」
「え~~それだけじゃないでしょ~~~!」
下世話な笑みでプライベートに突っ込もうとする福沢さんに、あとからやってきた遠野くんが便乗する。
「でも確かに、綺麗になりましたよね」
「え!?」
「ですよね~~」
「橘先生はもともと綺麗ですけど」
そんな取ってつけたような褒め言葉にはもう騙されない。そう硬く思いながら愛想笑いを返した。気配なく近付いてきていた槙田先生が、後ろからわたしと遠野くんのあいだに割り込んでくる。
「仕事に戻りましょ~ね」
遠野くんは槙田先生に思いきり怒られてから抵抗があるらしく、途端に顔を固まらせておずおずと引き下がり、福島さんは福島さんで唇を尖らせて名残惜しそうに立ち去る。
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