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 他病院から食道がんを患った患者が転院してきた。がんの深さ、リンパ節への転移を総合してステージⅡ。幸い、他の臓器への遠隔転移はなかった。  患者は白いワイシャツにブラウンのジャケットを着た品のいい七十代の男性。セカンドオピニオンとして来院したと言うが、ファーストオピニオンと変わらない結果に分かっていたかのように「そうですか」とすんなり頷いた。付き添いのふくよかな女性は奥さんで、そちらのほうがショックが大きいようだった。 「しゅ、主人は完治できるのでしょうか……」  わたしはCT画像を見て、正直に答えた。 「今のところ他の臓器への転移は見られませんので、手術をして切除することは可能です。ですが食道は肺や心臓、気管支など、他の臓器と密接しているので転移がしやすく、今回手術が無事に終わったとしても、新たに転移する可能性はあります」  口をぽかんと開けて、事実を受け止められないでいる。当の患者である男性が落ち着いているのが救いだった。 「治療法としては、まず術前化学療法といって、手術の前に抗がん剤治療をします。そうするとリンパ節に転移しているがん細胞や目に見えないがん細胞が消えたり、腫瘍が小さくなって切除しやすくなるので。抗がん剤の効果があれば、それから手術といった流れになります」  それも最初にかかった病院で提案されたものと同じ方法だったのだろう。無言で相槌を打っている。 「薬が合わなければまた違う薬を試して、効果を確かめながら体に合う治療法を探していきます。最初の病院に戻られてもいいし、ここで治療を続けることもできますよ」  夫婦は顔を見合わせ、小さく頷いたあと、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
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