548人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
たまに電話で近況報告をし合うが、母から聞かされるのは孫の話ばかり。わたしは仕事の話題しかない。数年前までは結婚の予定はないのかとしつこく聞かれていたが、最近では何も聞かれなくなった。そうなるとますます話題はないので、電話の回数はどんどん減っていった。最後に電話をしたのはいつだったか。食道がんの患者のことを思い出して、久しぶりに声を聞かせてあげようかな、と玉ねぎを焼きながら考えた。
「槙田先生は御兄弟いらっしゃるんですか?」
「俺も弟が一人。あんまり仲良くないけど。両親は地方公務員。離婚したあと、なんか気遣ってくるのが息苦しくなっちゃって。最近実家帰ってないなぁ」
経緯も環境もまったく違うけれど、どこか似ているわたしたち。正反対のタイプなのに、たまに重なる共通点があるから惹かれるのかもしれなかった。
わたしも槙田先生に聞きたいことはたくさんある。どんな子ども時代だったのかとか、どうして消化器外科を選んだのかとか、……どうして手術をしないのかとか。当たり障りのない質問をすればいいのかもしれないが、何を聞いてもいつか地雷を踏みそうで、それが怖くて聞けない。いつか槙田先生本人から話してくれるまで、わたしからは触れないと決めた。
「あ、冷麺食べようかな。橘先生は?」
「わたしはシメはバニラアイスって決めてるんです」
「甘いの好きだね、ほんと」
最初のコメントを投稿しよう!