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 たらふく焼肉を食べて、悔いを晴らしたわたしたちは今度こそ満足して店を出た。赤や橙の提灯や看板が並ぶ賑やかな飲み屋街を抜けると、四車線の大通りが横切る。このまま大通りに沿って元来た道を歩けば職場の病院へ辿り着くが、休日の前夜にこのまま解散するのもあっけないので、少し歩きませんか、と提案した。反対方向へ行けば港がある。 「もー。そんなに俺と離れたくないの?」 「あなたがまたデートしようって言ったんでしょう」 「橘先生は夜の海でデートするのが好き、と」  メモを取る仕草をする槙田先生を肘で突いた。そしたら今度は「繋ぎたいの?」と手を差し出してくる。完全に面白がられているのが癪で、わたしはその手を払いのけた。槙田先生は笑っているだけ。 「槙田先生の定番デートコースは?」 「彼女が行きたいって言うところ。以上」 「自分の意見はないんですか」 「一緒にいられたらそれが例え海でも山でもパチンコでも」  槙田先生はいまだに掴みどころがない。遠野くんにヤキモチを妬いたり食事には誘ってくれるのだから、わたしのことは好きなのだろう。でも用がない限り電話はしないしメッセージもない。「お疲れ、おやすみ」くらいは送ってみようかとは思うけど、それに対してわざわざ返信するような人ではないな、と思うとこちらもためらってしまうのだった。
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