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ジャケットのポケットに突っ込まれた両手を見る。「繋ぎたいなら繋いであげるよ」「まだ一緒にいたいならいてあげるよ」。その程度のものだ。自分が引き留めてでも一緒にいたいわけでもくっつきたいわけでもない。まあ、付き合うことになったのもわたしが先に告白して強引に決めたようなものだから、気持ちに差はあっても仕方はないけれど。あんなに嫌いだった槙田先生をいつの間にか自分のほうが追い掛けるように好きになっていることが、また癪だった。
意外と夜の港というのは人が多く、海を眺めながら愛を囁き合う若いカップルから堤防で夜釣りを楽しむおじいさんまで様々だ。ハンドメイドのアクセサリーや小物を売っているブースを冷やかしたり、意味もなく灯台に上がってみたりする。当然景色は黒い海しかないのだけど。
「意外と夜の海も楽しいでしょ?」
「食後のいい運動にはなった」
灯台からは突堤の先に建っているラグジュアリーホテルが見える。
「わたし、いつも見る夢があって……」
考えナシに話しかけて、ハッとしてやめた。わたしの夢の話をしたところで槙田先生にはプレッシャーにしかならない。中途半端に終わらされた槙田先生は当然、続きを急かしてくる。
「笑いませんか?」
「内容による」
「わたし、昔から定期的に見る夢があって、ラグジュアリーホテルのレストランで顔も分からない恋人と食事してるんですけど」
「その時点で笑っちゃう」
「婚約指輪を渡されて結婚して下さいって言われて返事する直前で目が覚めるんですよ。で、そのホテルのレストランが、あのホテルなんです」
灯台から見えるホテルを指差した。槙田先生は「ほー……」と意外にも落ち着いた反応で、もっと馬鹿にされたり笑われると思っていたわたしは拍子抜けした。それともやっぱりプレッシャーをかけてしまったのだろうか。だが、さすが槙田先生はわたしの斜め上をいく。
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