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「橘先生、熱でもあるんですか?」
福沢さんが心配そうに顔を覗き込んできて、わたしは慌てて距離を取った。
「ないわよっ、なんで?」
「目がうるうるしてるんで。具合でも悪いのかなぁと」
「花粉の季節だからかな? わたしは大丈夫よ、ありがとう」
福沢さんは女の変化に本当に鋭くて心臓に悪い。適当に誤魔化してトイレに逃げ込んだ。鏡に映る自分の顔を確認する。別に怠くも風邪の症状もない。熱っぽく見えたのだとしたら、ただの色ボケだ。しっかりしろ、と自分の頬を叩く。
土曜日の夜、果たして槙田先生は勃たなかった。けっこう長い時間をかけて触れ合ったが、昂る気持ちとは裏腹に槙田先生の体に反応はなく、槙田先生は済まなそうな顔を見せたので、わたしの方からやめましょう、と中断した。無理をして欲しくないし、申し訳ないと思わせたくなかった。
「わたし、絶対にしたいわけじゃないんです。本当に触ってるだけで充分です。ゆっくりいきましょうよ」
「……ごめんね」
それから何もなかったのかと聞かれればそうではなく、槙田先生は自分はできなくてもわたしを気持ちよくさせたいからと、その分たくさん可愛がってくれた。触れ方も優しいし、でも弱点を攻める時は意地が悪くて、わたしは槙田先生の指先にいいように翻弄されてしまったのだった。ストレッチや筋トレで維持を頑張っているといっても、やっぱり若い頃に比べたら衰えはある。けれども槙田先生は「綺麗だね」と言ってくれる。普段の不愛想でドライな彼からは想像もできないくらい優しかった。だからわたしは満足だった。
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