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――とはいえ、わたしがそれでよくても、槙田先生も気持ち良くなりたいよなぁ。
ストレスがダイレクトに体に影響するのはきっとわたしが考えるより辛いはずだ。セックスがどうという以前に、槙田先生にはトラウマを克服してもらいたい。トイレから出て、階段の踊り場で春の陽気を感じながら青い空を見上げた。窓に映る自分の姿を見て、どうすればもっと色気が出るのかポージングしていたら、
「お取込み中、失礼しますよ」
呆れた顔の槙田先生がいた。
「気配なく近寄って来ないで下さい!」
「いや、こんなところでポージングしてるきみがおかしいだろ。もうすぐ外来だよ」
「あ、本当」
槙田先生はわたしを神妙な顔つきでじっと見つめてくる。
「ごめんね、自分から誘っといて格好つかなくて」
土曜日のことを言っている。いくらこちらが謝るなと言っても、本人は引け目を感じるのだろう。それがお互いに辛いところだ。
「時間かかっちゃうかもしれないけど、気長に付き合ってくれると嬉しい」
「もちろんですよ」
「橘先生は可愛かったよ。胸も小ぶりでスタイリッシュだし」
「その後半部分、言う必要あります?」
「気持ちはすごく興奮してるんだよ。つまりさ、……ちゃんと愛はあるから、それだけは忘れないでね」
じゃーね、と去っていく槙田先生に、わたしはまた置いていかれる。いくら周りに人がいないとはいえ職場で赤裸々な話をするな。どこまでもマイペースな槙田先生にムカつきながらも、窓ガラスに映る自分はニヤけていた。
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