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「楓子ちゃん、前も言ったけど、ヤキモチ妬かせないでね」 「見てれば分かると思いますけど、わたしも遠野くんも全ッ然そんなんじゃないですから」 「それでも嫌なのよ、俺は」  そのままラグが敷かれた床に倒される。体を撫でる時の、槙田先生の手が好きだ。大きくて温かくて、優しい。大事にしてくれていると伝わる触り方。ただこの時なんとなく違和感を抱いたのは、槙田先生が本題を逸らそうとしているのではないかと思ったから。わたしと遠野くんが何を話していたのかは気になるのだろう。でも、その内容について深く追求してこない。自分の話であると分かっているから。わたしが何を知りたいのか分かっているから。聞かれるのが嫌だから。  槙田先生が触れて欲しくないなら触れない方がいい――のが、思いやりかもしれない。ただそれが槙田先生のためになるのかと考えたら、違う気がする。わたしのためにも、わたしたちが長く付き合うためにも、わたしには知る必要があると思った。わたしは槙田先生の頬を包んで顔を離した。 「手術をしなくなったのは別れた奥さんと関係があるんですか?」  槙田先生は気まずさと苛立ちの色を交えた目を、見開いた。 「遠野くんが、大学の教授から槙田先生は評判のいい医師だったと聞いたと言っていました。昔はオペしてたんでしょ? EDになったのも、手術をしなくなったのも、もしかして原因は同じなのかなって」  槙田先生は引き下がって、ソファに座る。あきらかに機嫌の悪そうな表情で、わたしはそれに少し怯えながらも続けた。
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