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「これ知ってんのは、大学病院で良くしてくれてた教授と川上先生だけ。だから川上先生、文句言いながらも執刀医決めてくれるの」 「そういえば、川上先生が槙田先生にオペしろって言ってるの見たことないですね」 「事情知ってても受け入れてくれた川上先生には感謝してんだ。それに『手術』ってなると手ェ震えちゃうけど、『検査』だと内視鏡もできるのよ」  きっとEDもその頃からなんだろう。やっぱりもともとの原因は同じだった。 「そういうわけだから、俺は手術はできないし、これからもするつもりはない。俺が今、医者としても恋人としても一番信頼してるのは楓子ちゃんだけだから。もう俺の知らないところでコソコソしないでね」  でも槙田先生は医師を辞めるほど、内科に転科するほど未練を捨てきれていない、恋人として本当に信頼してくれていたら、セックスに怯えたりしない。心のどこかで『俺はまだやれるはず』と思っているから外科医で居続けているし、『また裏切られたらどうしよう』という思いがあるからセックスに臆病なんじゃないのか。  けれども、槙田先生の笑顔を見たら何も言えない。少なくともわたしと付き合おうと思ってくれただけで彼にとっては大きな進歩なのだ。やっぱり気長に見守るしかないのかもしれなかった。
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