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見かねて思わず二人の間に入っていた。皐月さんは済まなそうに俯き、槙田先生は後頭部を掻きながら目を逸らす。
「お二人に事情があるのは分かりました。高坂さん、もう一度申しますが、執刀医の指名はできません。食道の手術は非常に難しく、たくさんの専門医と協力して治療しますので、すぐに決められるものじゃないんです。でも、高坂さんの希望は検討させていただきます」
「ちょっと橘先生」
抗議しようとする槙田先生に睨みを利かせて黙らせる。再度皐月さんに目を向け、続けた。
「ご本人が希望してらっしゃるとのことなので、また後日お話を聞かせて下さい。とりあえず今は抗がん剤治療に専念しませんか? 手術はこの次の段階になりますので」
「……はい。申し訳ございません。どうぞよろしくお願いいたします」
皐月さんは最後にチラ、と槙田先生に視線を送ったが、槙田先生は無視をした。皐月さんが病室に戻ると、
「検討って何を検討するつもりだよ」
肘で腕をつつかれる。わたしはたった今決めたことを、槙田先生の目を真っ直ぐ見据えて言った。
「手術、しましょう」
「はあ?」
「イップス治して、高坂さんの手術して下さい」
当然、槙田先生は苛立った顔で拒否した。
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