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「みんないい人だね」  手術を終えた槙田先生の第一声。丁寧に手を洗いながらしみじみ言った。 「いつもあんな感じですよ」 「俺、手術できないっつったら色々探られるんじゃないかと思って今まであんまり関わらないようにしてたけど、案外みんなアッサリしてるね。気にしてたの自分だけだったな。もっと色んな人と関わればよかった」 もったいないことしたなあ、と、これまでを惜しみながらも穏やかな顔。けれども、もし槙田先生が最初からみんなと親しくなっていたら、わたしとの関係はまた違っただろう。お互い本性を知ることなく、槙田先生は別の女性医師か看護師を好きになっていたかもしれないし。 「橘先生もさ、もっと素を出していけば? いつも俺に突っかかってくるみたいに。気ィ張ってニコニコしなくても、素のままでも受け入れてくれると思うよ」 「そうだろうなとは思います。でもずっとこれで来たから今更キャラ変するタイミングないし」 「まーでも、素の橘先生面白いから、人気者になったら困るね」 「誰が?」 「俺が」  意表を突いてドキッとすることを言う。しかも返し方が分からないような。わたしは挙動不審にうろたえるしかなく、槙田先生はそこまで見越しているかのように片側の口角を上げた。 「お疲れさん」
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